草野 隆美さん
安芸市地域おこし協力隊OB (2016〜2019年)
〈現在の仕事・生活〉
岩崎彌太郎生家施設の管理
〈人生を変える決断で協力隊へ応募〉
学生時代から接客のアルバイトを経験し、自分でもサービス業が楽しいと感じていました。そんな思いから卒業後、名古屋市内のホテルに勤めはじめました。当時は叔父が定年まで一つの会社で立派に勤めあげるのをそばで見ていて、ひとつのことを最後までやり遂げることに価値があるのだと思っていました。
ホテルでは5年ごとに表彰制度があり、やりがいもあったのですが、勤続24年目に「このままでいいのかな?自分には違う能力もあるんじゃないか?」と考えるようになりました。
それを探すために大都市から地方に移り住み、生活スタイルをガラッと変えてみようと思い立ち、ネットで色々調べて地域おこし協力隊制度を知りました。
ホテルでの仕事を続けながら、全国各地の協力隊の募集を隈なく調べたのですが、たくさんありすぎてなかなか候補が絞れなかったので、改めて自分の希望条件を考えました。
その結果、温暖であることと、好きな野球に関わりがあるという2つの条件が浮かびました。東京での移住フェアで高知県が温暖な気候であること、その中でも安芸市は海岸沿いで雪も降りにくく、阪神タイガースのキャンプ地でもあることを知り、地方に移り住んだことを生かせるような仕事をしたいと考え、移住・定住促進ミッションに応募しました。
〈日々の移住・定住促進業務から移住者交流会の企画立案へ〉
移住・定住促進のミッションは新設されたばかりで、私がその第一号の協力隊員でした。空き家調査、個別の移住相談、移住フェアへの参加が主な業務でしたが、思い出深いのは自分で企画立案した「移住者交流会」を実現したことです。
移住者ばかりではなく、移住サポーターである地域の方々にも来ていただき色んなお話をしていただくことで、移住者が地域に馴染む人脈作りの場につながり、私自身もこの会で随分知り合いが増えて、その後安芸で暮らしていく糧となりました。
大変だったのは空き家調査です。市内に約1,000軒あるという空き家の状態を職員さんと2人1組で一つ一つ確認し、すぐ住める状態か?修繕が必要なのか?修繕を行えば住める状態に回復する空き家なのか?など3段階のランク付けを行いました。
また、当時ペアで動く職員が女性で、空き家の前に市役所の車が停めてあった際、空き家に男女がいるという状況だけで不審者扱いの確認電話が市役所に入ることがあり、誤解を受けないよう大変気を使いました。
さらに、山間部まで車を走らせ、町まで戻ってきたらタイヤがパンクしていたこともあり、これが山間部の携帯の繋がらない所だったらと、冷や汗をかいたこともあります。
〈安芸市でしかできない唯一無二の仕事に〉
「卒業後はどう暮らしたいか?」と考えた時、安芸市での生活がとても心地良く、友人や知人もいたので「安芸市で暮らしていきたい!」という気持ちの中で、高知県内の会社に就職することができました。
会社からは何度か勤務地に近い高知市内への引っ越しを勧められたのですが、安芸市民として暮らしていきたいという思いが強く、赴任地だった南国市まで通っていました。
そんな中、岩崎彌太郎の生家の施設を管理するお仕事をご紹介いただきました。岩崎彌太郎は三菱の創業者であり、日本の経済界の発展に非常に貢献された偉人でもあり、安芸市が大好きな私にとってこんなありがたい話はないとお受けすることにしました。
仕事内容は、造園業と清掃業と工務店や警備を掛け合わせた感じです。生垣の剪定や庭の手入れ、生家の日々の清掃、傷み具合のチェックや管理をしています。
安芸市役所には三菱グループと関わりのある課があるのですが、この仕事を紹介してくれた担当課長が、協力隊員時代に私が隣の席でお世話になっていた職員さんだったんです。
生家の施設管理を長年担当されていた方が退かれることとなり後継者を探していた際、私のことを思い出してくれたことが、ご縁としか言いようがなくとても嬉しかったです。
〈仕事が変えた集落との関わり〉
この仕事が決まってからは、生家の隣に住み込む形に変わりました。以前の家では仕事で日中ほとんど家におらず、隣近所との関係も希薄でしたが、今では集落に関わる生活に変わり、しょっちゅう近所の人と会うので、名前を覚えてもらうために名札をつけて仕事をしています。
おかげさまで地区の総会でも自己紹介をさせていただき、車ですれ違いざまに手を振っていただいたり、おすそ分けをいただいたりと本当に良くしていただいています。
私自身、少しずつ集落に溶け込んでいくことが楽しく、役立てることがあったら何でもしたいと思っています。
これからも集落のことに積極的に参加し、安芸の人から頼りにされる存在になりたいです。「安芸で困ったことがあったら、この人に聞いたら答えてくれるよ」と言われるような安芸の主みたいな、そんな存在になれたら最高ですね!
〈現役協力隊員に伝えたいこと〉
最初からあれをやろうこれをやろうと力みすぎないこと。一人でできることばかりじゃないので、協調性やコミュニケーションも大切です。地域と良好な関係性を築くと自分自身も気持ちよく暮らしていけると思います。
〈〈取材を終えて〉〉
草野さんはサービス業に長年携わっていたこともあって利他の精神が溢れ出た方で、「とにかくお役に立てたら嬉しい!」と言葉の端々でおっしゃってました。
そんな草野さんの人柄だからこそ、市役所から今のお仕事のご紹介があったのだろうと、お話しをしていて強く感じました。
自分がどんな仕事をしたいか?だけではなく、ここでどんなふうに暮らしていきたいか?を卒業までにじっくり考えイメージすることはとても大切だと思います。
記事には載せきれませんでしたが、草野さんは今でも、公民館や商工会などの会に呼ばれて協力隊時代のお話をしたり、移住者として取材を受けることが多々あるそうです。
安芸に根付き、安芸への愛に溢れた草野さんへの信頼が、そういった依頼に現れているのだと感じました。
※この記事は2024年8月時点の情報を掲載しています
取材担当:川島 尚子