OBインタビュー 小笠原優さん(室戸市地域おこし協力隊OB)

小笠原 優さん
室戸市地域おこし協力隊OB(2016〜2018年)

〈現在の仕事〉
清掃事業、簡易郵便局局長、地元酒屋のネット販売手伝い、室戸高校の学習支援員など

〈室戸ユネスコ世界ジオパークに関わってみたい〉

 高校の時に地学を3年間学んでいたこと、そして、大学時代は環境政策を専攻していたこともあり、「地域の活性化」や「地球規模での課題」に取り組むことに興味を持っていました。

 大学卒業後は東京で働いていましたが、高知に帰りたいと思ったときに、室戸市で地域おこし協力隊としてジオパークに関するミッションが募集されていることを知りました。

 以前から「室戸ジオパーク」の認定など新聞で知っていましたが、新しい概念であるジオパークについてはほぼ分かっていませんでした。高校時代に読んだ「日本列島の誕生」という本にも、室戸は世界的な価値のある地質であるという内容が書かれていたことを思い出し、室戸ユネスコ世界ジオパークに関わってみたいという思いで応募しました。

〈次から次に降ってくるミッションに溺れかかった3年間〉

 室戸市は市全域がユネスコ世界ジオパークに認定されており、ジオパークに関する企画・広報がミッションでした。ジオパーク担当での地域おこし協力隊募集は自分が初めてだったのですが、企画広報に関わることは何でもミッションとなりました。

 広報するためには、まずジオパークとは何かを知らないと話になりません。今までの資料を読んだり、ガイド養成講座や地域での会議、調査活動やイベントなど何でも参加しました。

 並行して、あまり更新されていなかったTwitter(現 X)、Facebook、HPの更新、室戸市の広報誌に毎月載せる記事やジオパークに関する通信「ジオパークだより」の作成、観光雑誌の校正依頼の取りまとめ、イベントチラシ作成など広報活動を行っていました。

 また、当初はジオパークの専門員が担当していた「磯遊び」「生き物ウォッチング」「室戸岬サイクリング」の3つの体験プログラムや、季節限定の体験イベントなどの運営を引き継ぎました。体験プログラムは定番商品として今も現役地域おこし協力隊や担当職員、養成講座を受けたインストラクターの方々の手で継続されています。

 やることが次々と出てくる状態で、正直自分では「溺れかけよった3年間」だと思っています。

〈協力隊だから地域のこともより良く知ることができた〉

 ジオパークでは、その土地の成り立ちや地形地質と、その上にある自然生態系や人々の暮らし(産業や文化歴史)などとの繋がりをストーリーとして紐解き、体験ツアーや教育、地域の再発見などに活かしています。

 室戸ジオパーク担当だったからこそ、室戸市全域を多面的に知ることができました。

 よく地域の方々には、「私らぁより室戸のことをよう知っちゅう」と言われます。イベントや地域のお祭りなどにも取材で参加することができたので、地区を越えて地域の方々とたくさん出会うことができました。また室戸市の広報誌に毎回顔写真が載っていたおかげで地域の方々との会話のきっかけにもなりました。

〈悩んでいる人へ〉

 私は元々器用でもないし、期限ギリギリの状態もよくありました。そんな中、ジオパークと音楽を絡めた企画も卒業までにしたいと温めてはいたものの、結局実現しないまま終わってしまいました。正直大変だったこともたくさんあり、室戸に残らない選択肢もありました。

 それでも3年間協力隊を続け室戸に残ろうと思えたのは、移住者5人で立ち上げて今では地元の方々も多く参加する「むろとウクレレ部」というコミュニティの存在があったからこそだと感じています。

 また、当時は高知県東部地域での協力隊ネットワークがあり、協力隊同士、市町村の内外でも良くつながっていました。悩みを話したり、業務外でも遊んだり、一緒に何か企画したりと、協力隊同士や地域でのコミュニティに参加すると、何かあった時にとても心強いし、何より暮らしが豊かになると思います。協力隊OBからもよく励ましていただいたことでした。

 一方で、業務上やらざるを得ない自分の苦手なことも、やり続けていたらいつの間にかできるようになることも多々ありました。できないからこそ、できるようになるため、調べたりコツを見つけたりして、いつの間にか強みになっていきます。諦めず向き合って頑張ってみるのも大切だと思います。

〈起業かつ複業、さまざまな問題の間をつなぐ〉

 協力隊の任期中から、室戸高校で授業についていくのが困難になった生徒に勉強を教える学習支援員を今も続けています。また協力隊任期が終わってすぐ始めた地元酒屋の手伝いも続けています。これらの給与収入があったことで事業での収入が安定するまでとても助かりました。 

 地元酒屋ではそれまで手書きだった売上管理や給与計算などを、パソコンで計算表を作り、作業を数分で完結するよう効率化を図っていきました。ネット販売のページ作成やSNS発信には、協力隊時代の業務で培ったスキルが役に立っています。

 何でなりわいを作るのか?卒業前に考えた時、東京時代に仕事で行っていたオフィスや商業施設の清掃業を思い出しました。室戸では過疎高齢化で空き家が増えて行くにもかかわらず、荷物が置きっぱなしかつ持ち主も高齢化や遠方に住んでいて片付けられず、活用がうまく進んでないようにも感じていました。

 そこで、お部屋や庭の掃除、片付けなどをすることで、持ち主が空き家を活用したり、売買してみようと思える後押しを自分ができるんじゃないかと思い、清掃業で起業しました。協力隊の起業支援補助金は清掃備品を搭載したり、片付けた荷物などを回収するための車両を購入させていただきました。

 最初、元々やっていたオフィス・商業施設での清掃と、一軒家の清掃では勝手が違い戸惑うことも多々ありました。今では地元の粗大ゴミの回収業者と協力し、空き家の片付けとゴミ分別をこちらが引き受けることで回収業者も時間や労力を短縮することができ、いい関係を築くことができています。

 おかげさまで事業も軌道に乗り、毎週、毎月、毎年とご依頼いただくお得意様もできました。名刺以外HPも作っておらず一切営業していないのですが、口コミでお客さんは増えています。

 移住して8年となりますが、公民館のシルバーセミナーに呼ばれて自分の活動を話したり、自宅の清掃ワンポイントアドバイスの講座なども好評で依頼されます。そんな時一緒にウクレレの演奏もリクエストされることがあり嬉しいですね。

〈両親も移住、より暮らしやすい室戸市へ〉

 今では中古の家を購入して暮らしていて、定年退職した両親も室戸に引っ越してきました。

 3月から三津という地域の簡易郵便局の局長も勤めることになりました。ボランティアでこども食堂の運営にも参加しているのですが、そのメンバーとして出会った前局長の奥さんから、ご高齢で旦那さんが局長を引退すると相談を受けました。

 郵便局を閉じる選択肢もありましたが、過疎地域から金融機関がなくなるということはそこに暮らす高齢者にとって損失となり生活にも大きく影響します。自分にできるならと引き継ぐことを決めて手続きを進めてきました。

 郵便局では現在4名雇用していて、清掃業も人を雇わないと回らなくなってきています。自分自身も学んでいくと同時に、スタッフの育成もこれからの課題ですね。

 今まで求められるままに色んなことを引き受けてやってきました。流されてきたように見えて結果として必然だったと今では実感しています。

 室戸市をより良く、住みよくしたいという大きな思いもあるので、地域の活動や室戸市の施策についても知識や学びを増やしていきたいと思っています。

〈〈取材を終えて〉〉

 小笠原さんのことは現役時代からそばで見ており、色んなことを断れず引き受けすぎているという印象でした。実際、頼まれてもキャパオーバーな時は断ることも大切だと諭したこともあります。

 清掃業の事業化は、これから高知県各地でなりわいを作るモデルケースになりうると思います。盲点に目をつけた素晴らしい事業展開だと思います。そしてそれを軌道に乗せたのは彼の人柄と地道な努力を続ける姿勢によるものだと取材をしていて実感しました。

※この記事は2024年3月時点の情報を掲載しています

取材担当:川島 尚子