OBインタビュー 鈴木信太郎さん(四万十町地域おこし協力隊OB)

鈴木信太郎さん
四万十町地域おこし協力隊OB (2015~2018)

〈現在の仕事〉
一般社団法人四万十農産 理事

〈田舎暮らしと農業がしたくて 四万十町へ〉

 四万十町に移住するまでは、日本や奥さんの故郷であるタイで事業を立ち上げ、商売をしていました。私は東京で生まれ育ち、「田舎」がありません。幼い頃から田舎に憧れを持っていて、いつかゆっくりとした自然豊かな環境で暮らしながら「野菜づくりがしたい」と夢を持っていました。

 事業が終わったタイミングで、地方への移住と農業への挑戦を考えるようになりました。移住先はタイの野菜が作れる、暖かい土地を検討していて高知県が候補になりました。

 最初は就農に必要な基礎的な知識や技術を勉強するため、四万十町にある高知県立農業担い手育成センターで1年間の修業をする予定でしたが、参加した移住フェアで出会った四万十町の役場職員さんの紹介で「地域おこし協力隊制度」を知ります。

 地域おこし協力隊になれば、3年間の任期の中で農業や地域協力活動に携わりながらに地域を知り、四万十町での暮らしが実現できると教えていただきました。

 幼い息子がいる家族のことを考えると、移住して農業で生活できるか、病院や学校等の生活環境が整っているか、地域の人と仲良くできるか等は大切で、実際に暮らしてみないと分からないことだらけでした。そこで、まずは地域を知りながら田舎暮らしを実現させて、農業に携わっていこうと地域おこし協力隊へ応募することに決めました。

〈地域を知りながら、地域づくりと農業に取り組んだ3年間〉

 地域おこし協力隊のミッションは仁井田・影野地区の地域づくりでした。仁井田・影野地区は農業を中心に地域を守ってきた地域ですが、他の中山間地域と同じように少子高齢化や人口減少が進んでいます。

 私が着任した頃は、「仁井田を考える会」という地域の有志の方々が集まる協議体で、毎月1回、地域をよくしていくために話し合いを重ねていました。その話し合いへ前任の地域おこし協力隊の活動を引き継ぐ形で私も参加し、地域のみなさんと地域のことを一緒に考えていくことから始めました。

 2016年には、地域の活性化のために集落活動センター「仁井田のりん家」が立ち上がり、私は開所までの準備や集落活動センターの運営のお手伝いをさせていただきました。

※集落活動センターとは…
「「集落活動センター」とは、地域住民の皆さまが主体となって、地域外からの人材も受け入れながら、旧小学校や集会所などを拠点に、それぞれの地域の課題やニーズに応じて、生活、福祉、産業、防災といった様々な活動に総合的に取り組む仕組みです。」

(引用:「集落活動センターポータルサイト えいとここうち」
URL:https://www.eitoko.jp/about/(2023年12月18日閲覧))

 立ち上げの段階から携わってきたのですが、私の中では地域の方たちがやりたいことが最優先です。集落活動センター「仁井田のりん家」を通じて地域の方々が何をしたいか、そのために自分ができることを考えて活動をしました。春と秋の居酒屋や夏のビアガーデン、梅狩り&梅酒づくり体験、女子会など…。地域の良さを引き出しながら、地域の人達が集まることを大切に行ってきました。

 また、集落活動センター「仁井田のりん家」の横にある学童に私の息子が通っていたこともあり、学童の子どもたちが休みの日には、同期の協力隊と協力して移動動物園を開催したり、高齢者と子どもたちが交流して草履をつくる行事をしたりと同期の協力隊とも連携しながら、地域の人と人が交流し、地域の楽しみに繋がることにも取り組みました。

 協力隊のミッションに取り組む一方で、地元の農業生産法人である株式会社サンビレッジ四万十の方に「農業したかったら手伝いにおいで」と声をかけてもらったことをきっかけに、米や生姜をつくることになり、農業のイロハを一から教えていただきました。

 地域おこし協力隊の活動を通じて、普通に移住するよりも数えきれないぐらいの人と知り合えました。もちろん、地域で合わないこと、大変なことはありますが、地道に地域に入って出会いを重ねていくこと、自分のことを地域の人に知ってもらうことは、この土地で生きていくには大切なことです。

〈協力隊卒業後も地域を農業で守り、地域の人が集まり楽しめることづくり〉

 今は、影野地区にある広域集落営農法人である一般社団法人四万十農産で農業をしています。協力隊卒業後は、独立して農業をするという夢がありましたが、地域でお世話になった方から「四万十農産の立ち上げを手伝わないか」と声をかけていただき、「自分が力になるのであれば、立ち上げのお手伝いをさせていただきたい」と思い、まずは就職を決意しました。

 四万十農産では、主に地区の方が耕作できなくなった農地の管理を受けて、お米や大豆、栗などをつくり販売等をしています。農業を通じて地域を守ってきたこの地区で、耕作放棄地をなくし、産業の基盤である農業を絶やさない地域づくりはこの地域にあっていると思います。地域を農業で守るお手伝いをしながら、日々、農業に没頭できていて、充実した日々を過ごさせてもらっています。

 また、休みの日には集落活動センター「仁井田のりん家」の交流部会の部長として地域づくりにも取り組んでいます。地域の困りごとや昔あったけどなくなってしまった地域に必要だったことをもう一度取り戻しながら、地域のことを助けていこうという集落活動センター「仁井田のりん家」が大切にしている考えのもと、みんなでアイデアを出し合って活動しています。

 地域おこし協力隊のときに始まった地域の交流を深める居酒屋などは今も続いて、地域の人が集まって、楽しそうにお酒をのんで話している姿を見ると「よかったねぇ」と純粋に思います。

〈これからも地域の方々とともに、地域を守っていく〉

 人が減り、若者が減っているという地域の現状がありますが、今後も農業に携わりながら「農業でもごはんが食べていけるよね」となるような土台づくりをしていきたいです。また、次のステップとして、集落活動センターと農業法人、地元の企業も巻き込みながら、地域を元気にしていくためにできることを一緒に考えてやっていきたいです。あとは、子育てが落ち着いたら、海釣り、アユの投網など、自分の趣味の時間ももって田舎暮らしを楽しみたいです。

〈協力隊を検討中の方に一言〉

 地域の方の「まずは草刈機を買え!草刈機を買うことは地域に入るパスポートだ!」という言葉は今でも心に響いています。まずは、地域に出向いて、一緒に活動して、自分を知ってもらいながら、地域に溶け込むことが大切です。自分だったら協力隊に「草刈機買ったら?」と言うところからはじめます(笑)

〈〈取材を終えて〉〉

 鈴木さんは田舎で農業をするという夢や人、ご縁を大切に、そのときの自分に合った選択をされています。協力隊卒業後も地域に暮らし、地域を守る活動を続けている鈴木さんの姿が地域にある。そのことが素敵なことで、地域の大切な力だと感じました。

※この記事は、2023年11月29日時点の情報を掲載しています

取材担当:小笠原