●協力隊に応募した理由・応募した地域を選んだ理由を教えてください
コロナ禍で夫も自分もテレワークとなったのをきっかけに移住を考え始めました。夫の母が高知県の出身で、小さな頃おばあちゃんの家に行くと食べ物が美味しくて最高だったと聞かされていたこともあり、高知県が移住地候補となりました。我が家には猫がいるので、夫だけ先に移住先を見に行くことになったのですが、宿探しで「東風ノ家」というゲストハウスを見つけて、たまたま安芸市に行きました。約一週間滞在した夫から楽しかった感想を聞かされて、安芸市っていいんだなあと思いました。
もともとお祭りが好きで、暮らしていた地域の氏子青年会にも入って活動していたのですが、夫が見つけてきた安芸市の地域おこし協力隊の募集ミッションに地区の活性化や活動支援の項目があり、お祭りにも関われたら素敵だなと考えました。
それから東京の「移住暮らしフェア」に参加し、安芸市のブースで担当者にお話を伺いました。その上で「一度自分の目でも安芸市を見てから決めたほうがいい」と言われ、今度は自分が安芸市に行き、東風ノ家に滞在しました。
滞在中、宿主の仙頭さんにお話を伺ったり、商工会議所の会に連れて行ってもらったりと知り合いがどんどんできて「私ここで暮らしても大丈夫そう!」と思い心を決めました。

●ミッションの具体的な取り組みについて教えてください
「移住・定住促進」と「奈比賀地区の活性化」の二つのミッションを担当しています。
まず、「移住・定住促進」のミッションでは、移住希望者の相談対応のほか、空き家バンクへの登録支援や内見対応、専用サイトやSNSを通じた情報発信、また県外での移住フェア参加など、移住希望者との接点づくりに幅広く取り組んでいます。
「奈比賀地区の活性化」ミッションは、高知県が県内すべての市町村で実施した集落活動調査の結果を受けて、安芸市が2023年度から本格的に取り組みを始めたものです。安芸市では、ゆずなどの地域産業は一定維持されている一方で、地域の担い手不足が他の市町村に比べて深刻な課題となっています。
奈比賀地区でも、コロナ禍の影響を受け、行事や地域活動が途絶えたこと、「何とかしたい」という地域からの要望もあり、高知県の「小さな集落活性化事業費補助金」を活用した地域の維持や持続可能なまちづくりに向けた取り組みが始まりました。そのタイミングで地域おこし協力隊として奈比賀地区に入り、地域の皆さんとともに活動しています。
【協力隊として奈比賀地区に入り、活動するにあたって意識して取り組んだこと】
安芸市ではこれまで、他の中山間地域においても、地域住民が主体となり、地域おこし協力隊や高知県立大学の学生、市の地域担当職員などと協力し合うことで、地域を盛り上げてきました。
その際地域と縁が深く、今後も活動の継続が見込める”地元出身者”にも声かけがなされ、人口は減少しているものの、さまざまな人の支えにより、住民同士の連携や地域全体の結びつきが深まってきたという経緯があります。
こうした背景を踏まえ、奈比賀地区での地域づくりを持続的なものとするために、私自身地域との関係性が深い”地元出身者”や、日頃なかなか顔の見えない”勤め人の若者”に、いかに地域行事に参画してもらうかという点を、大きな軸として意識しながら取り組みました。
着任後、まずは地区の役員さんや公民館長と顔合わせを行い、地域が将来どうありたいのか、どんなことに困っているのかをお聞きしました。話を伺う中で、コロナの影響で集まる機会が減っただけでなく、行事などの情報が一部の役員にしか共有されておらず、若い世代も地域活動に関わっていないことが明らかになりました。
そこで、2023年6月から毎月末に「ナビカのこと」という地域情報誌を発行し、まずは私自身の自己紹介や地区の活動内容の紹介から始めることにしました。小さな取り組みですが、地域内で情報を共有し、世代を超えたつながりを育むきっかけづくりとして続けています。

●これまでの活動で印象に残っていることを教えてください
若者も活動に参加できるような行事としてバーベキューを地域の方々と一緒に企画しました。地区の若者同士が仲良くなり、それがきっかけでライングループもできました。ある日、その中の一人が「車椅子の親が車椅子ごと転倒してしまい、自分だけでは起こせないから助けてほしい」とそのライングループで助けを求めたんです。それで何人か集まってきたのですが、数人かかってもなかなか起こせなくて困り果てていたところ、介護職についているグループのメンバーがきてくれて、1人でひょいと起こしてしまったんです。ライングループで繋がりができて、そのような助けにつながったことも嬉しかったのですが、その後、基礎的な介助講習を受けられたらこのような事態にもみんなが対処できる、講習をやってほしいとメンバーから頼まれました。社会福祉協議会などの協力を得て講習を実現したのですが、自分達からこんなことやりたいという声が出たこと、そして自分が頼られたことがとても嬉しくて印象に残っています。
●活動中に直面した課題と、その課題に対して取り組んだことを教えてください
地元出身者や若い世代が地域の活動に関わるようになり、少しずつ奈比賀地区に変化が出てきました。役割の引き継ぎが進み、新しい行事が生まれるなど、これまでになかった動きも出てきています。これまで地域に深く関わってくださっていた高齢の方々も、引き続き活動に参加してくださっていますが、時間の融通が利く若手農家などに役割が偏ることもあり、今後はそのバランスを取ることも課題と感じています。
また、これまでにチューリップ祭を2回開催しました。1回目はとても大規模に実施したのですが、準備や運営の負担が大きくなり、関わった方々が「疲れて楽しむ余裕がなかった」と感じる結果になりました。その反省を踏まえ、2回目は規模を縮小し地域内の交流をメインにしたところ、今度は関わった方々から「楽しかった!」という声が聞かれるようになり、地域でのイベントのあり方について見直すきっかけとなりました。
今後も、奈比賀地区の皆さんと一緒に、「無理なく、楽しみながら」地域の元気を取り戻していけるような活動を続けていきたいと考えています。

【地域との関わりで学んだこと】
最初の方はすぐ落ち込んでいたことも、今は建設的に考えられるようになりました。今まで失敗も含め活動してきたことで、自分自身も成長したように感じています。「ナビカのこと」の発行も任期後もなんとか続けたいと思っていますが、住民の方が最近パソコン教室でメキメキ実力をつけ始めていて、元々「ナビカのこと」は公民館だよりとセット頒布していたので、公民館だよりが続いて行くなら、無理に続けず無くなってもいいのかもと考えるようになりました。

●任期後の意向について教えてください
任期後もこのまま奈比賀地区と関わり続けたい思いがあり、集落支援員になる道も考え中です。また、宿もやりたいと考えていて、物件を見つけ整備中です。元々お祭りが好きで、業務外で「赤野獅子舞」にもお面作りのお手伝いやイベント企画のサポートなどで関わらせてもらっています。赤野獅子舞に関わるみなさんがとても一生懸命で、獅子舞が地域づくりにとって大きな存在なんだなと感じています。
どんな道を選ぶにしても、安芸市でこれからも暮らし続けていきたいと考えています。
「2025年8月時点」取材担当:川島尚子